tkherox blog

データサイエンスおよびソフトウェア開発、たまに育児についての話を書いています

『ソフトウェア・ファースト』を読んでみて

今回は読んだ書籍について私なりの意見を記載していこうと思います.

本の選定

社内人になってライフステージも変化してくるとまとまった時間を確保する事が難しいため,読書やインプット量が少なくなってくると感じました.特に,仕事に集中していると視野や視点が狭くなり,その点で成長が鈍化しているなと実感することがあり,最近では意識的に参考書・ビジネス書を読むように習慣化しています.
今回はそこで読んだ書籍の中から学びが多かった「ソフトウェア・ファースト」について所感をまとめてみようと思います.

簡単に本書籍の紹介を行っておきますと,マイクロソフトGoogleといった現在ではGAFAMと呼ばれるOTTに勤めて世界標準の技術開発・サービスを提供してきた及川卓也氏が,日本企業が昨今の世界的潮流に取り残されないためには,かつての成功モデルである「製造業的ものづくり」から脱却し,ソフトウェアを中心としたサービス志向の開発体制を構築することが重要だと説いた内容となっております.また,日本企業の組織体制や文化を批判するのではなく,ソフトウェア・ファーストを実現するために個人や組織がどうあるべきかを役職や状況別に記載しているため,どの読者にとっても気づきが多いものとなっています.
個人がどう世の中で生きぬいていくべきかを考えさせられる一冊なのでソフトウェアに関わる人に限らず是非一読してみると良いと思います.

読了した後の考え方の変化

それではソフトウェアファーストを読んだ後に自身にとって印象的かつ考え方に影響があったなと思った内容について観点別に記載していきます.

ソフトウェアの過小評価

ソフトウェアの持っている力についてです.
ここまで欧米企業と日本企業で落差が広がった要因として,著書ではITの捉え方を要因として掲げています.日本企業というのはITを省力化や効率化のための道具として捉えているため,既存業務をITで置き換えるという思考が根付いている(投資効果が把握しやすい)のに対して,欧米企業ではITが既存産業のルールを破壊してビジネスを作り変えるものとして捉えられており,この部分で投資の仕方やITの活用部分で大きな違いがあります.
昨今では日本でも様々な領域や職種がITの力を活用して事業をドライブしていくことが要求されるようになってきて,エンドユーザである我々一消費者の目線からでもそれを感じられるようになってきていると感じます.しかし,なぜか日本企業ではITの力は理解しつつも,やり方はこれまでと同様に業務の置き換えと同じ枠組みで実行しようとします.そうなると当然上手く行かない部分が多く顕在化してくると思っていて,実際に日々私が業務を遂行する過程でも節々に違和感を感じることがあります.結果としてうまくドライブできない,もしくはスピード感が欠如するなどといった問題が日本企業では多発しているのがリアルなのではないかと推察しています. ITの力を理解して,さらに正しい行動を取るべきことが重要である事を自らの体験と照らし合わせて改めて思ったという部分で私にとっては印象に残っています.正しい行動という部分についてもう少し言及しておくと,ここでは「変化」という言葉に言い換えられると思います.つまりは,ITには底知れない力がある一方で,それらを使いこなすための知識のアップデートも同時に必要です.昨今のITがどの領域でも必要不可欠なツールとなっている情勢を鑑みても,ありとあらゆるビジネスマンがこの変化をし続けなければならないと改めて感じました.

マネージャーの在り方

ジョブディスクリプションという言葉が流行ってきている中で,日本企業のマネージャーは管理職としての専門性を高めて,担当領域におけるマネジメントに対してプロフェッショナルに変わっていく必要があるという記述です.
今までマネージャーの役割ってなんなのだろうと考えていて自分の中で明確な答えがなかったのですが,この部分を読んでみてまさにこの疑問に対する答えだと思いました.
部下が成長していくために気づきを与えていく行為やパフォーマンスを引き上げていくための魅力のある環境を整備していくことがより要求されてくるので,そこを今の時点でこの意識を持って業務に臨んでいく必要がありかつ,今後はよりプロフェッショナルな人材になっていかないと市場価値がなくなり40代で無価値の人材にならないようにそうですね. 一方で,この考え方は現在の所属組織が健全な組織・マネージャーなのかどうかという観点を図る指標としても利用できるなと感じました.例えば,所属組織のマネージャーに役割を尋ねてみた時に,役割について聞いた時に一番最初に勤務管理やスケジュール管理という内容が出てきた際には黄色信号かと思います.

主役は現場社員

本書ではソフトウェアの主役は現場であると言う記述があります.現場社員はエンジニアや非エンジニア問わず自ら手を動かして身の回りの業務の非効率をソフトウェアの力を使って改善して見せるという部分は非常に響くものがありました.できない根拠をかき集めて,やらない事実を作り上げてしまうといった思考に陥りがちだったので,良い意味で自戒をするきっかけとなりました.
また,改めて自分で何かを生み出せる・作り出せる力は不確実な世の中を生き抜くために必要なスキルだと再確認できたので「主役ば現場」と言うこの言葉を常に抱きながら継続してアウトプットを出していこうと思います.

10X思考

10X(エックス)思考!

自身も新規事業などを企画するフェーズがあったのですがこの視点は抜け漏れていました.改めて振り返ると既存業務の置き換えなどといった枠からは抜け出せていなかったように思えます.
確かに事業成長率が10%と言う目標値であれば人員増加して達成できてしまうと言う観点でスケールをしない方式でも達成で規定しまうが成長率が200%であればもはや人手では到達不可能であるため,改めてソフトウェアを用いたスケールする方法を模索しようといった思考になります.制約条件をあえて強くする事で新たな発想を生み出すと言う考え方は自らの思考パターンとしてストックしておこうと思いました.
そして,ここでもやはりベースとなるのはポジティブにその達成目標を実現するにはと方法を考える癖で,そんなことは実現できっこないと言うできない事実を集めてしまう考え方を抱いている間は10Xは到底実現できないでしょう.

全員がプロダクト志向

役割に縛られて,それ以外のことは範囲外だから担当しないという人材の価値を改めて考えさせられました.今後は技術がより民主化されてきて,高い専門性でもない限り誰しもが同じような技術力を発揮できるようになると思います.その際に差別化となるのがプロダクト志向だと思います. 一般的なソフトウェア開発ではWhatやWhyはプロジェクトマネージャーの役割で,Howを考えるのがエンジニアの役割とされていると思いますが,これだと言われたことしか出来ないと同義です.つまり,より不確実性が高まるにつれてアジャイルに対応しなければいけない開発現場に対して判断できない・自走できない人材であることは当然価値が下がると言えます. そのため,エンジニアであったとしても事業が目指すべき目標やユーザに対して提供する価値を意識して動くことはより求められることから,組織やルール等の枠にとらわれずにプロダクト志向であるべきです.
加えて,全員がプロダクト志向であるべきというのは,アジャイル開発を実現するための必要条件だと私は感じています.アジャイル開発はチーム開発であり,時には自身の役割を越えて目標を達成するための働きを求められます.その際に,このプロダクト志向の考えが根底にあることが,役割の越境を経てチームメンバーの自走へと結びつくため,チームや組織にプロダクト志向を根差すことは非常に重要だと思います.

まとめ

さて,今回はソフトウェアファーストの内容を読んでその後の所感やマインドシフトを中心に記載させて頂きました.書籍自体の内容は少しボリューミーですが,その分より詳細に記されているため非エンジニアの方でも非常に分かりやすいものになっていると思います.
昨今ではどの企業・領域でもDXが必要だと世間的に持て囃されておりますが,まずはこの書籍を一読して自らの置かれている状況やスタンス,必要なリソースを理解して,採るべき戦略を思考していくことが具体的なDXの実現に繋がっていくかと思うので購入して読んでみることをおすすめします.

次回はデータ分析における話ができればと思います.